廃園

一次二次創作を含む世迷言です。何でも許せる方のみどうぞ。あくまで個人的な発言につき、転載、引用はお断り致します。

【未来のこども】

※拍手御礼

 

 


シェルターの扉を開けば、網膜に残像を呼び起こす程の強い光が視界を灼いた
どこまでも高く透き通る蒼天。思い出したかのように大地に広がりゆく緑
もはや少年とは呼べない精悍な容貌の青年は、その五指を開き、黙って虚空に掲げる
すり抜ける風が、ざわりとそよめいた

疲弊していた世界はゆっくりと復興への途を刻んでいた
殺戮と破壊、ひと成らざるものへの原初の恐怖
それら全ての悪夢をその意志ひとつを力として取り払った青年は、
かつて師と過ごした無力な日々と同じく、人々から離れて独りその時を過ごす
その異質の力もて、笑う人々の記憶を揺り動かさぬように
『……僕達は、誰とも違うんだ』
一言そう呟いて、瓦礫へひたと視線を向けた彼の人の双眸は
ただ虚ろに見えないものを見つめていた。自分には決して見る事など適わぬものを

──あなたの『願い』を叶えることは出来たでしょうか──?

かつてその眸が自分を捕らえた事など数える程しかなかったけれども、
それでも、少年はその背を追った。そして、今でも追い掛け続けている

──今なら──微笑ってくれますか──?

脳裏に霞むたなびく長い黒髪。思い出すのはその後ろ姿と

風は何ひとつ答えを返さず、指の間から覗く蒼天に、ついと一羽、鳥が横切った

 


[◆◆◆]

 

 

──守りたい。守ると決めた。……何を失っても、誰を犠牲にしても

あの日、遥か未来から来た少年が告げた言葉は、僕の中の『何か』をぶつんと断ち切った
『優しさ』より、『思い遣り』より、『強く』なければ、
『大切』で『大事』で『特別』なたった1人のひとを守れないのだと、
幼かったあの日、僕は思い知らされたのではなかったか?

望めば何時なりとも逢え、手を伸ばせば暖かいその身に触れられる安寧に、惑わされ
『大切なものを守りたければ強くなれ』
……………………『強く』なるしか、ないのだと
『力』も『強さ』も『戦い』の意味も解らず泣き惑う自分にそうとだけ告げた、
──あの、声。あの、言葉。あの、──『存在』を

──────失う訳には、いかない


運命の日までの3年間、彼の人は側へ留まると云う
ならば、今この瞬間に眸を醒ました『僕』を
……完璧に、隠しおおせてみせようか
自分でも気付かぬよう、ひっそりとその意識の底に沈み、たゆたい
彼の人が知るままの『僕』で在りながら、
休む事無く、その牙を研ぎ澄まし

レコードに刻まれた、何時か訪れるその時に
全てに逆らい守ってみせる。そう決めた。──────だから今は

だから、今は
サヨウナラと呟いて、そっとあなたに背を向けた

「……? どうかしましたか?」
「────いや、何でも無い……」

 

 

[◆◆◆]

 

 

その戦い方を見て思わず息を飲んだ。我知らず隣に付き従う愛弟子を見遣る
あれは……こいつの戦い方だ
力だけで圧すのとも違う、スピードで翻弄する訳でも、小細工で惑わす訳でもない
自分が知る、地球人ともサイヤ人ともナメック星人とも違う、
……誰とも違う、ただ1人の愛弟子の戦い方を受け継ぐものだ
…………どういう事だ?


──盗み聞きなど趣味じゃない。けれど、どうしてもその事情が気になって

未来から来たのだと告げる少年は、
たった独り生き延びた『悟飯』に育てられたのだと、云った

次元が違う世界なら、その世界の『悟飯』は自分の知る少年とはまるで違うものなのかもしれない
それでも、残された僅かばかりの可能性を諦めず、その意志一つ持って時を越えた少年の眸を見遣れば、
『悟飯』がどんな風にどんな想いで『同族』の少年を育て導いたか解る気がした

──残して逝くのはどれ程辛かった事だろう。……残された時は如何ばかりか

『もう1人の自分』もその世界に存在していたのなら、
……きっと『悟飯』の為に力及ばず生命を落としたのであろう事は想像に容易い
後悔は無かったろう。自らの望むままに行動した結果なら
────けれど、
残された少年を見て、残された『悟飯』が見える
……………この身を掻きむしって血を吐く想いがした

──────強く、なりたい。──『力』が、欲しい
自らが生き延びる為にではない
先の未来、たった1人だけその幸福を願うその存在が明るく輝くものである為に

……………叶う、ものなら
この手届かぬ背中合わせの次元、今は眠る『悟飯』の望みが叶えられたら、いい

……微笑って、くれたなら。……その眠りが、穏やかなものであったなら

『神』などと云う概念が虚構にすぎぬ事など解ってはいるが、

…………叶う、ものなら

──────見上げた蒼天に、願う祈りが届けばいい

 

 

 

[◆◆◆]

 

 

自分がこの世界の中心だ、と云わんばかりの顔をして
大人顔負けで得意気にものを話す子供に酷く苛立つ自分がいる

母親譲りの好奇心の旺盛さか、滅多に言葉も交さぬ自分に何やらしつこく絡んでは、
1人で怒り、1人で納得し、そして1人で叫んでいる
生粋の戦闘民族の血族らしからぬ甘えきった態度には殺意すら覚えてしまう程に

かつて死線を共にした少年は、確かに甘さもあれど芯の通った強い眸をしていた
譲れぬものを胸に抱いた、決して折れない意志を持っていた
あの何時まで経っても甘さの抜け切らぬ同族に育てられたと聞いたから、
それならばと手ずから鍛えてみたものの
……………何処でどう間違ったのか、気が付けば何とも小憎らしいクソガキが1人
どれだけ殴っても蹴り飛ばしても、諂う事無く睨み返す子供に死にたいのかと怒鳴ってみれば、
そんな時だけ意味不明といった子供らしい顔をする

真実殺してやろうかと、星砕く力をこの手に込めた事も無い訳ではないが、
飽きもせず向けられる呼び掛けに
……何故かもう少しだけと諌め留める声が聞こえて

成る程確かにこの子供は『中心』なのだ
周囲の者を振り回し、造り替え、自らを取り巻く風に乗せ笑う
その本質は変えぬままに

……こんな事になるのなら、
力は劣れど、ひとを導くのに長けたあのナメック星人に預けた方がマシだったかと考えて、
ヤツが育てた同族が
その比類無き強さと同等のどうにも頑迷な甘さを合わせ持つ事を思い出し、
サイヤ人はもうただの1人も残っていないのかもしれないと、
思わず溜息を付く自分が情けなくて信じられない

 

 

 

[◆◆◆]

 

 

彼を未来に送る事は、歴史を変え、神に逆らう事に他ならない
けれど、こんな未来なら────!


何時だって倖せになれる事を信じて来た。倖せな未来を信じていた
どんな時も。……何が起ころうとも
私だけは倖せになれる筈だった。だって、何も悪い事なんかしちゃいないんだもの

……人造人間が現われて、街が破壊され、人々が殺されて
何時だって自分に正直に生きて来たのに、こんな目に遇うなんて理不尽過ぎる
文句を付ける神様だってもう居ないのなら、逆らう事には、ならないわよね?

夫なんかじゃない。恋人ですらない。碌に会話らしい会話も交した訳じゃない
けれど、……私はあの日あの時アイツを選んだ。……選んで、くれた
人造人間との戦いで皆殺されてしまったけれど、
……………まだ、戦える最後の希望を残してくれた

……昔のカレには悪いと思うけど、ほら、
結局一番良い未来を選んでる。その時々の、自分自身の意志で
……だったら、
私のやる事は結局すべて正しいのよ!

……彼を産んだ私より、育てた少年に似て礼儀正しく育った彼が、
月の出ない夜、廃虚の瓦礫の中で独り少年を想って哭いている事を知ってる

汚れている筈もない涙を隠すのは、……私への優しさと、
彼自身も気付いていないだろうサイヤ人のプライド。……アイツの、誇り


────行ってらっしゃい。……そして、倖せな未来を勝ち取るの!
全ての人々が穏やかに笑う、私にとっての、倖せな未来をね!

誇り高きサイヤ人はね、強者に媚びて生き長らえるより、欲しいモノは戦って手に入れるのよ!
必要なら、『神様』だって自分で選んじゃうんだから!