廃園

一次二次創作を含む世迷言です。何でも許せる方のみどうぞ。あくまで個人的な発言につき、転載、引用はお断り致します。

【雑文】

 

 


[chapter:■004:白い花■]


 ───切り立った崖の中腹に、小さな白い花が咲いている。


 それは、以前にたった一度、友人からもらって、そして、枯らしてしまった花だった。
 大事にしていたつもりだったのに、惰性からの思い上がりで、枯らしてしまった花だった。


 ───あの時と同じ白い花が、崖の中腹で揺れている。


 下から手を伸ばしても届かない。………梯子を昇れば届くだろうか?
 上から身を乗り出しても届かない。………岩肌を伝って辿り着けるだろうか?

 手に入れたとして、どうする? と、脳裏でもう一人の自分が囁く。

 以前よりもっと大切にしようと、大事に大事にガラスケースに入れて、
 そうして又、私は花を枯らしてしまうんだろうか。
 それとも「今度は大丈夫」とおざなりに扱い、
 そうして又、私は花を枯らしてしまうんだろうか。

 そもそも花は、私の手元に在るべき花なのだろうか?
 欲しいと願うその愚行こそが、ひっそりと咲く花を枯らすのだろうか。


 ───切り立った崖の中腹に、小さな白い花が咲いている。


 焦点定まらぬ眸で見上げていたら、
 道往く優しいひとが、土ごと掘り返して私にくれた。

 「大事にしましょう?」と、そう、云って。
 手を振り立ち去る背中をぼんやり見送った。

 手放したくない、見つめていたい、大事にしたい、枯らしたくなんかないのに!

 植え替える事も、崖に戻す事も出来ぬまま、
 花は今も、私の手の中で揺れている。

 このままでは枯れてしまう、解っていても。
 流す涙しか、与える事は出来ずに。


 ───切り立った崖の中腹に、小さな白い花が咲いている。

 
 恐る恐る開いた両の手の平には、
 地面を掻きむしったんだろう傷と、土汚れが少し。

 この手に咲いていたかのような、長い長い夢を見ていたんだと気付いた。


 ───切り立った崖の中腹に、小さな白い花が咲いている。
 ───あの時と同じ白い花が、崖の中腹で揺れている。


 汚れた手を届かぬ花へと翳し、咲き続ける花に、安堵して。


 ───切り立った崖の中腹に、小さな白い花が咲いている。


 下から手を伸ばしても届かない。
 上から身を乗り出しても届かない。


 ───あの時と同じ白い花が、崖の中腹で揺れている。

 
 覗き込んだ時ぱたりと落ちた、涙ひとつ花弁を伝うのが見えたような気がした。

 

 

 

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[chapter:■007:手を繋いで■]


 手を繋いで 君と眠ろう
 繋いだままで 朝を 迎えよう

 手を繋いで 君と歩こう
 繋いだ手に そっと 口付けた

 絡む指先と 感じる温もりで
 伝えられたらいい 君が好きだと

 何も云わずとも 繋いだ手の
 強さと痛みで 信じてほしい

 君が好きだと 大切なんだと

 撓むシーツの海に 微睡む君と
 微かに耳朶を打つのは 細い吐息だけ

 公園までの小道 君は照れるけど
 僕は叫びたい気分さ 君が好きだと

 君が好きだと 愛してるんだと

 手を繋いで 君と踊ろう
 月明かりのワンフロア 夜通し廻ろう

 手を繋いで 額合わせて
 キスをしようよ? さぁ眸を閉じて

 君が好きだと 君だけが好きと

 手を繋いで ほら 繋いだままで

 

 

 


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[chapter:■008:うた■]

 

 

 夢から覚める瞬間 記憶を横切るように
 思い出す ひとがいます

 もう二度と逢わないと決めて 背を向けた
 大切で大好きな ひとがいます

 「今、何をしてますか?」
 「あなたなら、どう、しますか……?」

 声に出さず眸を瞑り 問い掛けて

 通り過ぎ 髪を巻き上げる 風の音に混じり
 聞こえる筈もない 声を聞いたような

 そっと呟くのは あなたの名前

 いつも胸の 奥で 微かに響いている
 あなたの声と ゆっくりと掠れるメロディ

 古い古い うたのように
 RAMメモリのランダムアクセス

 もう思い出せなくとも

 古い古い うたのように
 今も 一番奥で 流れ続けてる

 古い古い うたのように
 繰り返し絶え間無く 祈り続けてる

 古い古い うたのように

 

 

 

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[chapter:■011:同じ空の下■]

 

 

 

 「………それじゃあ、またね?」

 そう云って手を振った、でも、きっと、
 ───もう二度と逢えない。

 あの日の小さな確信が、今も胸に疼いてる。


 白く塗られた壁、白い部屋。
 清潔なシーツをくしゃくしゃに握り締めて、
 捕われて見上げた、切り取られた四角い空。

 ───あの日と同じ青。


 あの空の下、あなたは静かに笑ってくれているでしょうか。

 同じ空の下、あなたも同じ青を見上げてくれるでしょうか。


 ごめんね?
 誠実で優しいあなたに、一つだけ、嘘を付いた。
 ごめん。
 騙されてくれたあなたへ、謝る事すら、出来ない。

 

 


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[chapter:■014:手紙■]


 
 もう幾度、あなたへこうして手紙を書いただろう

 「ごめんなさい」
 「ありがとう」
 「さようなら」
 「元気でね」

 ───たった四行の手紙

 かつて傍に居てくれたあなたへ
 ひとを大事に想う事を教えてくれたあなたへ

 ───もう今は 逢う事も叶わないだろうあなたへ


 便箋を折り、封筒に入れて
 ────覚えてしまった住所、切手は貼らず

 ポストに投函する代わり、ダストボックスへ───とすり


 精一杯の私の気持ちは
 明日の朝にはゴミ収集車が回収して行くだろう

 なんてお似合いの結末


 そうしてまた数日後、──数カ月後、───数年後
 私はあなたへ同じ手紙を書くのだ

 たった四行の手紙

 「ごめんなさい」
 「ありがとう」
 「さようなら」
 「元気でね」

 ………たったそれだけの手紙
 ……………たったそれだけの言葉

 けれど、
 何万語を費やしてもきっとあなたには伝えられないし、伝わらないから

 「ごめんなさい」
 「ありがとう」
 「さようなら」
 「元気でね」

 たった四行の手紙

 それだけが、今の私に書ける言葉
 ─────大事な大事なあなたへの手紙