【誰が為に豆を撒く】
「はい、ピッコロさん。今日は『節分』なんだそうですよ」
「………節分?」
「民俗学の教授に教えてもらったんですよ。何でも今日は『鬼は外、福は内』って呪文を唱えながら外に炒った豆を投げると………」
「鬼は外?」
「悪い鬼は家の中に入って来れなくなって、おまけに倖せは家の中に閉じ込めたままになるんだそうです。何だか面白そうじゃありませんか? 随分昔の風習みたいだから、何処まで正確に伝承されているんだか解らないですけどね」
「それでこの豆か」
「ええ。どうせならピッコロさんと倖せ二人占めにしようと思って。寄り道して買って来ちゃいました」
「……………」
「………?」
「悪い鬼は中に入って来られない、だと?」
「えと………どうかしましたか?」
「………あのな悟飯」
「はい」
「俺は一応『魔族』なんだが」
「まぁそうですねぇ」
「『魔族』は『悪い鬼』だろう? 『悪い鬼』が入って来れないようにと『魔族』が『内』から豆を投げてもいいものなのか?」
「……………ピッコロさんは、ピッコロさんです」
「お前が俺に豆を投げて、俺がこの家から出て行くのならまだ解るんだが」
「そんな事しませんよ!」
「………豆を投げるなら、お前だけ投げておくのがいいんじゃないのか………?」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………古い風習なんだろう? 俺は気にしないから………」
「呪文変えます」
「…何だと?」
「『鬼は内、福は内』にしましょう! そうしたらピッコロさんも倖せも家の中に閉じ込めておけて僕には万々歳です!!」
「おい、悟飯………」
「どうせ何処まで正確なんだか解らない風習ですし!臨機応変に対応する事も大事でしょう!」
「ご、ごは………」
「投げた豆を拾って歳の数だけ食べると更に病気にならないそうなんですが、ピッコロさんは食べられませんから、代わりにピッコロさんの歳の数だけ僕が貴方にキスしますね」
「何でそうなる!」
「臨機応変。豆の代わり」
「其処まで変わるんだったらやらなくったっていいだろうが!!」
「何云ってるんですか! 倖せ二人占めでピッコロさん一人占めの大チャンスなのに!!!」
「もうこれ以上無いだろうが!!!」
「───!!!!」
「──────ッ!」
「………ピッコロさん、それって………」
「煩い! 俺は知らん!」
「もうとっくに僕がピッコロさん一人占め?」
「………………ッ!」
「………一人占め、されてくれてるんだよね?」
「─────ッ呪文を変えるぞ!」
「はあ?!」
「『鬼は内、ガキは外』だッ! さぁエロガキはさっさと出てけーッ!!」
「うっわピッコロさん痛いって!幾ら炒り豆でもそのスピードだと当たったら死んじゃいます!!」
「お前がそうそう当たるタマかッ!」
「あ、じゃあやっぱりピッコロさん僕の事………」
「『鬼は内、ガキは外──ッ!!!! 』」