廃園

一次二次創作を含む世迷言です。何でも許せる方のみどうぞ。あくまで個人的な発言につき、転載、引用はお断り致します。

【SSS−02】

 

 


[chapter:■空への梯子]

 


「いよいよ救助が始まりましたね」
「ああ」
「地下七百メートル、落っこって生きてたんも奇跡なら、脱出も奇跡や」
「きっと、世界中のレスキューマンがこの映像を見てるだろうな。だが、脱出は奇跡じゃ出来ない」
「…」
「どんなに不可能に思えても、決して諦めなかった結果だ。国境を越え、人種を越えて、誰ひとりくじけず、救出を信じて努力し続けた」
 ───レスキュー隊は勿論、垣根を越えて協力したNASAも、声と祈りを届け続けたマスコミも、様々な物資と技術を提供した諸外国も、そして地下に沈んだ要救助者も───誰もが、誰ひとり。
「…そうですね。すみません、失言でした」
「この映像を見て、この救助を見て、俺達はまたひとつ壁を越える。越えられた事を知って、そして、まだ前に進める」
「無事に、全員地上に出られるとええですね」
「せめて信じて祈ろう。ここにいる俺達にはそれしか出来ないからな」
「そういえば」
「ん?」
「いっちゃん最初に上がってくんのって、怪我人や病人やのうて、元気でピンシャンしとるベテランだそうですよ。何があるか分からん云われて、おっかないでしょうね」
「安全確認もあるだろうからな。要救助者の体力精神力を考えれば外から入った人間では検証にならないし、現場としては苦渋の判断だな」
「…隊長ならどないします?」
「?」
「俺達があの場に一緒に落っこってたら、隊長は行かはりますか?」
「………いや」
「やっぱり」
「……何が起こるか分からないんだろう? ──なら、お前を行かせるよ。お前の方が閉鎖的な状況での動きは機敏だし、緊急事態への判断も任せられる」
「そんで、隊長は最後に出てくるんや」
「そうだな」
「地上でいーっぱい綺麗なおねーちゃんが待っとるのに、待ちぼうけくわすんや」
「嶋本は待っててくれないのか?」
「んーどないしよ。あんまり待たされたら迎えに行きたなるかも」
「地下七百メートルまでか」
「地下七百メートルまでっすね」
「──二人っきりか、帰りたくなくなるな」
「中継カメラん前で不埒なん止して下さいよちょっと」

 


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[chapter:■専用SWEET]

 

 

「……んっ…ん、……ッ!」
 もー何でこないなんなってんや俺ーッ!!
 つか訓練! 訓練てもお嘘やろ!

 

「いい加減止めるKA」
「段々公開セクハラの様相を呈してきましたね」

「片腕で廻る腰、すっぽりと抱き込める肩幅…」
「んんっ!」
「ああ、尻も小さいな。だが弾力がある」
 あんた、一体どこまでする気なん!
「誰かな。もう少し確認させてもらおうか」

「誰が始めたんですか。目隠ししてバディを探す、だなんて」
「そう云うNA。一応これでも真田の前にゃ五人並べたんだZE」

「んっ! …は、ちょっ──ん!」

「大体あの位置に頭がある時点で、シマだってすぐ分かったでしょうに」
「ありゃー完全に遊んでるNA」
「と、云うか、他の隊員になんて目もくれずに直進してましたけどね」


「目尻が濡れているな、泣いてるのか?」
 どれ、と目元にかさついた感触がした後で、濡れたものが肌をなぞってゆく。
 ほんま勘弁して。足の力抜けそ


「匂いで分かんのKA? 大型犬が野良猫にじゃれてるみてーだNA!」
 HAHAHA!と笑い声が煩い。
 ちくしょお後で覚えとれ

「匂いと云うよりもフェロモンじゃないですか?」
 高嶺ぇ、おどれだけは信じとったんに


「………たいちょ」
「………声を出すのはルール違反だぞ、しま」
「…それ以上ふざけんなら、これが最後だと思って下さいよ」


「分かったぞ黒岩さん。これがシマだ」


「何だ、いきなり白々しいNA」
「…きっと奥さんから何か云われたんでしょう。お預けだとか」
「っかー! 尻に敷かれっぱなしだなぁオイ」

「聞っこえてんじゃど阿呆共! 覚えとれやこのゴリラ!」

「おいだんなー! ちゃんと機嫌取っとけYOー」

「それは今夜にでもじっくりと」

「知るか阿呆お!!」
 ぜったさしたらん! ちくしょお破裂すんまで干したる!

 


「………しま」
「なんすか。たいちょなんぞ知らん云うたでしょ」
「意地を張るな。……少し濡れてるだろう?」
 おまえの においが するよ。
「──ッ!!」
「夜までいい子で待ってろ。……ほら、おいで」

 


「あ、捕獲されましたね」
「どうせ真田がまたろくでもねえ事云ったんだRO」
「シマも大概真田隊長に甘いんだから」
「似た者夫婦KA」
「バカップルって云うんですよああいうのは」

 


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[chapter:■ハロウィン2010]

 


「とりっくおあとりーと」

 

「……ひとんちの玄関で何の真似ですかそれは」
「狼男、だそうだが」
「犬耳付けて首輪付けて棒読みでとりっくて! トッキュー隊長ともあろうお方が何してくれとんのですか!」
「今日はこう云ったら甘いものを貰える日ではないのか?」
「そらそーですけど! そんなん三十路のおっさん二人でやらんくてもええでしょ」
「いや、嶋本はいつも若々しい」
「そらどうも〜って! それは俺が童顔だっちゅー厭味ですかい」
「可愛いと思うが」
「がぁっ!」
「童顔じゃなくなっても可愛いぞ」
「〜〜〜ッ!! 大体! たいちょにんな余計な知恵付けたん誰ですもお!」
「イガさんが教えてくれた」
「…きちょお……」
「この耳は高嶺からのプレゼントだ」
「………ブルータスお前もか………」
「似合わないか?」
「似合いますけど似合ってどーすんですか」
「うん、似合ってたらたくさんさせてくれるかと思って」
「させて、て」
「イガさんが云ってたぞ。お菓子を貰えなかったら悪戯させてくれるんだろう?」
「いたずら…て、ちょっと」
「どんな菓子よりも嶋の方が甘いし、そうだな、俺がしたいのも勿論だが、嶋からしてくれるのも捨て難いな」
「…不穏当なこと笑顔で云いながらひとん事脱がすのやめて下さいよ」
「狼男だからな」
「意味分からへん」
「そうか? しまもと、とりっくおあとりーと」
「……」
「しま」
「………じゃあちゅーで。それ以上は、明日が一応準待機っちゅー事をふまえて……どーぞ」
「わん!」
「…たいちょ、狼は『わん』なんぞ云わんのです…って! ちょ、待て待て待て! ハウス!」
「狼男だからな。丸くてすべすべで美味そうだ。さすがにここは焼けないな」
「噛まっ!」

 

 


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[chapter:■恋人はサンタクロース]

 


『…発達した低気圧の影響により、太平洋側地域は今夜より冷え込み、週末は例年よりも五〜七度ほど下がった真冬並の気温となるでしょう。インフルエンザの流行も確認されていますので、外出なさる際には……』

 

「…嶋本、どうした?」
「いえ、いよいよ本格的に寒なるなぁ思て」


 時節の動きを追うにはもってこいのワイドショーを、情報収集がてら聞き流すのはさほど珍しい事ではない。リビングテーブルに広げた作り置きのおかずと白飯を二人角隣にかきこみながら、壁のスペースをそれなりに占拠するテレビから流れる海外ニュースや巷の事件にたわいもない品評を付ける、いつもと云えばいつも通りの朝の光景だ。
 海上保安官、その中でも特殊救難隊という職業柄、隣国の情勢や自然災害の報に意識が向くのは当然だが、さほど珍しいとは云えない天気予報を、箸を止めてまでじっと見遣る嶋本というのはあまり見ない光景で、季節柄変哲もない天気図の何が気になるのかと自らのバディに問うても、にっこり笑って流されてしまった。
 本当に何でもない事なのだろうに、どこか「あしらわれた」感を感じるのは、業務の中ではいざ知らず、こういった日常の会話で嶋本に勝てた試しがほとんどないせいかもしれない。何を云うつもりもなく、またどう云ったものかも分からず、ついいつもの甘えで嶋本をじっと見てしまった真田に、そんな事は分かっているとばかりに嶋本が更に笑う。

「ほんとうに、なんでもないですよ」

「しま」
「何だかんだで先延ばしにしちゃいましたけど、そろそろ冬支度せなあかんなぁて、思い出しただけです。隊長の冬コートも出しておきましょか」
「コート?」
「持ってはったでしょう? カシミアの長いヤツ。あれ暖かいし、たまには着てあげな」
「あれは動きにくい」
「そうは云うても、まさかスーツん時までヤッケじゃあかんでしょ。勿体ないです、あれ着た隊長格好ええのに」
「そうなのか?」
「ええ、惚れ直しそうです」
「じゃあ今から着て出るか。買うのは食料と靴だったな」
「別にすぐ着ろ云うてませんよ。スーツ着てる訳とちゃうんやし、今は楽なもん着て下さい」
「じゃあスーツで」
「たいちょ、どこまで買いもん行くつもりですか」
「駅前の商店街だな」
「商店街にスーツにコートて。えらいドレスコードですね」
「惚れてくれるんだろう?」
「なっ?!」
「嶋が惚れてくれるんなら、スーツでもコートでも何だって着るさ。俺は毎日毎日惚れ直すのに、不公平じゃないか」
「不公平てそれ、日本語の使い方間違うてますよ」

「そうかな」
「そうです」

「残念だ。せっかく得点が稼げると思ったのに」
「稼いで誰と競ってるんですの」
「嶋はいい男だから」
「は?」
「誰からも愛される。その嶋が俺に惚れてくれるんなら、何だってするさ」
「………あの」
「これでも結構必死なんだ」
「……シード権どころか独走状態なんで安心しといて下さい」
「そうか?」
「そこを疑わんといて下さいよ。何なんすかもう。先々別れる予定でもあるんすか」
「絶対ない。嶋を離すつもりなんて毛頭ない」
「……ならええでしょ。つかですね隊長。さっきからミョーに口が廻ってはりますが、自分の状態分かってはります?」
「?」
「赤い顔。とろんとした目つき。飯渡すんに触ったらえらい熱かったし、普段より明らかに躁状態です」

「しまもと?」

「風・邪・で・す・よ! これから寒なるってのに、なに先取りして引いてんですか! また布団を俺にばっか掛けて背中出してはったんでしょ!」
「………」
「飯食う元気があるだけマシやけど、どんどん顔赤なってくるし。今日は外出たらあきません。一日大人しく寝てて下さい!」
「だが買い物が」
「後で俺が行って来ます。ついでに薬も買って来たりますから」
「こーと……」
「たいちょは何着てたって男前です! 今のスウェットだって十分ですよ」
「………」
「唸らないで下さい。考えたってあきません。ちゃんと頭廻ってへんでしょーが今」
「しまのことだけかんがえてる」
「ああそーですか、そらどーも。……ほら、飯食ったんならさっさと寝て下さい。家の事はやっときますんで」
「……」

「…隊長ならね、多分一日大人しくしてくれはったら明日にはすっきりです。仕事休みたないでしょう? 体調管理も仕事の内ですよ」
「………」
「たいちょう?」
「……点数が下がった気がする。残念だ」
「知らんのですか? 隊長らしい」
「?」
「や、知らんでええです。 ほら、先ずはもう寝ちゃって下さい。一汗かいたら着替えましょうね」
「それなら一緒に……」
「大人しくて云うたでしょ! ええこにしたらんとサンタさん来ませんよ」
「……ああ、クリスマスか」
「そーです。欲しいもんあるんやったらええこにしてな」

「しま」
「はい?」

「嶋本がいい。他に欲しいものなんてない」
「………まーったく」
「しまがいい」
「……俺なんてもう持っとるでしょーが。ほんま、熱でアホなってますねぇ」
「しま」
「はいはい。熱が下がったらね、プレゼントをベッドに突っ込んどいてあげますよ。そんなん入る靴下なんぞありませんからね」
「やくそく」
「はい、約束」

「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」

 

「風邪引き男と目病み女、ね…。確かに色っぽくてかなんなぁ。あんま精の付くもん食わすのも怖い気するけど……しゃあないか」


「ええこには、プレゼントやらなな」