廃園

一次二次創作を含む世迷言です。何でも許せる方のみどうぞ。あくまで個人的な発言につき、転載、引用はお断り致します。

【indulge】

 

 

 

 

「デートしましょう」

 

 

 二週間ぶりの休日だった。
 スタッフが次々とインフルエンザで倒れる中での研究は当然ながら人手不足で、此処暫くは研究室にこもりっきりだった。たまに帰るのは着替えを取りに行く程度の時間で、それも真夜中、起こさないよう眠る恋人の寝顔を覗くのは精一杯。

 あなたの作った食事を一緒に食べたかった。
 あなたの温もりに触れながら眠りたかった。
 その薄い唇に口付けを落として、
 すべらかな肌を艶やかしくおののかせたかった。

 けれど、
 スタッフの誰もが一生懸命頑張っている夢の結果を
 諦める訳にはいかなかったし
 諦めたくもなかったから

 あなたに逢えない時間を
 あなたへの気持ちを囁きながら耐えた。

 

 

 二週間ぶりの休日だった。

 忙しいと云っても、何時もは日付の変わらぬ前に自分を抱き締める恋人は
 此処数日は毎日が午前様で、休めないのかと訊きたくても、本人にも譲れないものがあるのはその眸を見れば解ったから。
 せめてと僅かな逢瀬に出来る限りの手料理を持たせた。
 余計な心配を増やさぬよう、平気なふりをして出て行くあいつを素っ気なく見送った。

 目の前で珈琲を飲む時の優しい笑顔が見たかった。
 一人で過ごす部屋は毎日にほとんど変化もなくて、
 持て余した時間に気付かぬよう、ただ高い空だけを見上げた。
 空気が何層にも積み重なり、時間が足跡を残すかさついた音を、ただ黙って聞いていた。

 自分の事などどうとでも構わなかったけれど、
 この身が損なわれる事を誰よりあいつが悲しむ事を知っていたから
 そんなカオを、一番させたくないと思ったから
 願っているから

 静かに寝室のドアが開かれる気配に
 黙って瞼を閉じ続けた。

 

 

 研究もようやく一区切りついて
 休んでいたスタッフも復帰して
 文字通り待ちに待った休日を
 あなたと過ごさないなんて嘘だ

 こんな良いお天気なんだから
 たくさんのあなたのカオを見せて
 と、云うか僕が見たいんだ

 

 

 終わったよ、と
 あいつが帰って来たのはやっぱり日付が変わった後で

 珍しく揺り起こして口付けを強請られながら
 明日はお休みなんですと寝惚けた声で呟いていた

 それならば、一日中でもゆっくり眠らせて
 自分はその寝顔でも眺めて過ごそうかと思っていたのに

 

 

 嬉しそうなカオをしていないね
 知ってますよ

 優しいあなたはきっと
 僕に休ませようとか眠らせようとか考えてる
 でもね、でも

 

 

 ああいうカオは一番質が悪い
 にこにこと笑いながら自分の我侭を通す時のカオだ
 オレだってお前と一緒にいたいけど、
 疲れてない筈なのも知ってるから、今日くらいは休ませてやりたい
 お前が大事だって気持ちも、もうオレの中にちゃんとあるんだ

 

 

 夢の中のあなたよりも
 陽光の中のあなたが見たいよ
 真っ暗な部屋で伸ばした指先が
 あなたの熱を探せないのはもう厭なんだ

 

 

 腫れぼったい目元よりも
 少し痩せてしまった頬よりも
 元気に笑うお前が見たいんだ
 何かを我慢しているようなカオはもうさせたくないんだ

 

 

 だから

 キスをしよう
 あなたの熱に触れたくて堪らないんだ

 

 

 それなら

 キスをしたら
 お前は笑ってくれるだろうか?
 お前がこの行為を好んでいるのは知っているから

 

 

 引き寄せる為触れた手の平から
 伝わるあなたがぞくぞくする程気持ちがいい
 もっとだ、もっと

 

 

 掴まれた腕が熱い
 撫で上げられた腰にざわりと何かが奔った気がした

 このままキスされるんだろうか
 キスさせたらお前は笑ってくれるんだろうか

 違う

 オレがキスしたいんだ
 オレが笑って欲しいんだ、お前に

 

 

 珍しい
 逃げようとしないね
 ナニ考えてるの?
 ナニを考えてても、もう逃がしてはあげられないけど

 

 

 ほら

 

 

 何度交わしても、初めての時のように甘いキスを
 何度交わしても、冷めることのない熱いキスを

 溺れるひとのように吐息を重ねて
 隠れたがっているふりをする天の邪鬼な舌先を追って

 心臓が破裂しそう
 ドキドキを早鐘を打つリズムはどちらから?

 目眩がしそう
 触れ合った熱が愛し過ぎて

 キスをしたいのも、されたいのも
 僕で、お前で、オレで、あなたで

 

 

 デートは次のお休みにしてもいいよ

 それよりも、ほら

 愛しさの海で、キスをしたまま
 このまま二人で、沈んでしまおう

 ああ

 あなたから
 お前から

 

 

 密やかに、水の音がするね